遺言取り消し・撤回の問題点
前に作成された遺言と新しく作成された遺言書の内容に抵触部分(矛盾や異なる内容)がある場合は、前の遺言書の内容が、新規に作成された部分によって撤回されたことになりますが、このような場合に問題が生じます。
例えば、遺言の目的物を他者に売却した場合で、その後その売却が取り消された場合はどう処理すれば良いのでしょうか。
売買の取り消しとは、取り消された売買契約は最初に遡ってなかったことになるので、前の遺言が効力を失わなかったことになるとも考えられます。
民法の規定では、前の遺言が取り消されることになった後、後の遺言や遺言の内容に抵触する行為が取り消されても、前の遺言は復活しないとされています。
ただ、この規定には例外があり、その遺言内容に抵触する売買や法律行為の取り消しがが、詐欺や強迫を原因とするものであれば、その行為等は、元来遺言者自身の本位に基付くものではなかったので、遺言そのものの取り消しには当たらないとしています。
内容に抵触部分のある前後2通の遺言書を作成し、後の遺言書を破棄した場合は、前の遺言書しか存在しないので、前の遺言書の内容が復活すると考えがちですが、前の遺言は、破棄された後の遺言を欠いた段階で、その抵触する部分は、効力を失っているので、前の遺言の効力が復活することはないのです。
遺言は、遺言者気持ちでいつでも簡単に撤回や取り消しが可能なので、簡単に撤回されては困る人も多いのではないでしょうか。
遺言者と遺言内容についての約束を取り付けそれを前提に生活する者にとっては、簡単に撤回や取り消されることは迷惑でしょう。
そこで、遺言者に遺言の放棄は行わないといった言質(遺言の取り消し権放棄)を取りたいと思う方もいるとは思いますが、民法では、「遺言者は、その遺言の取り消し権を放棄することができない」と規定しています。
そこで、遺言で確保される実質的な財産を得べき者は、遺言者がまだ生きている時点で、生前贈与や何らかの労務や貢献に対する報酬として、相続財産を事前に受けとっておかなければならないと思います。