「相続させる」と記載された遺言の解釈
遺言書の記載の中に、「長男○○には自宅並びにA土地を、二男○○には乙株式会社株式並びにB土地を相続させる。
」という表現がよく使われます。
ところが、この「相続させる旨の遺言」としてこの記載の解釈について以前から、学説並びに裁判例で争いがありました。
その争いとは、このような遺言がなされた時、この遺言は、遺産分割方法の指定をしたものか、または遺贈なのかの解釈上の争いでした。
しかし、この問題に対して、最高裁判所は、平成3年4月の判決で、これを遺産分割方法の指定と解する判示し、それまでの議論に一応の決着を付けました。
最高裁判決の要旨は、
1.特定の遺産を特定の相続人に「相続させる趣旨の遺言
は、遺言書の記載から、その趣旨が遺贈であることが明確に示されているか、または、遺贈と解すべき特段の事情がない限り、当該遺産を当該相続人をして、単独で「相続させる遺産分割の方法が指定されたもの
と解すること。
2.このような遺言がなされた場合は、特段の事情がない限り、何らの行為を要することなく、被相続人が亡くなり次第直ちにその遺産は、当該相続人に承継される。
ことです。
最高裁判決から実務上導かれる効果は、
1.遺言で、特定の相続人に対して遺産を「相続させる」としていれば、被相続人による遺産分割の指定として、遺産分割協議が整わない場合に行われる家庭裁判所の審判等を経ずして、遺言で指定された相続人がその特定の遺産を確定的に取得する。
2.「相続させる遺言
とした目的相続財産が不動産の場合では、被相続人が死亡した時点で当該不動産は、何らの行為を要せず、直ちに相続により相続人に承継され、遺言執行者の執行も必要はない。
これにより、指定された相続人が単独で相続登記申請できることになります。
(この結果、登録免許税も安く済みます)
3.遺産が農地の場合では、農地の所有権移転では原則として通常農業委員会の許可が必要で、「遺贈」と解釈されれば農業委員会の許可が必要ですが、遺産分割の方法であれば、農業委員会の許可は不要です。
4.賃借権を相続する場合では、賃貸人(所有者)の承諾も必要ありません。
(被相続人の賃借人の地位をそのまま承継するから)
5.遺産が債権の場合では、その権限を主張する者に対して対抗要件を備える必要もないことが挙げられます。